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[一部の横須賀市立中学校で行われている「自衛隊の職場体験学習」についての 日本共産党市議会議員団の意見] を、教育長に渡しました(10月6日)

2016年10月6日

教育委員会委員長 荒川由美子様
教 育 長 青木 克明様

一部の横須賀市立中学校で行われている「自衛隊の職場体験学習」についての日本共産党市議会議員団の意見

日本共産党市議会議員団
団長 大村 洋子
ねぎしかずこ
井坂 なおし

9月2日 第3回市議会定例会本会議 一般質問において、ねぎしかずこ議員が本市一部の中学校で実施されているキャリア教育の一環である自衛隊での職場体験学習について、教育委員会委員長、教育長と質疑をいたしました。その際の答弁は「安全保障関連法については現行の学習指導要領には具体的な記載がなく、中学校社会科の教科書にも触れられていないので取り扱わなければならない内容ではない」「職場体験学習を通して生徒は自らの勤労観、職業観を養い、将来の自分の生き方を考えるきっかけとしている。自衛隊もその学習の場の一つと捉えており他の職業と区別する必要があるとは捉えていない」というものでした。私たちはこの答弁を承服できません。私たちに情報提供してくださった方々も当日傍聴されていましたが、憤りを禁じ得なかったと聞いています。

このような一般質問の答弁を受け、9月16日には情報提供してくださった方々5名と私たち議員団3名の計8名で教育委員会事務局の伊藤学学校教育部長、佐藤昌俊教育指導課長、溝口洋樹指導主事のお三方と懇談をいたしました。市議会事務局を通じて資料照会として12の質問項目を事前に提出し、書面での回答を求めました。しかし書面での回答は断られました。したがって、懇談当日は回答の聞き取り、書き取りにほとんどの時間を費やすことになりました。しかも当日冒頭において「この後に予定があるので、40分、45分でお願いしたい」と懇談時間を短縮する旨を言い渡されました。

以上がこの間の経過です。これらを踏まえ、以下私たちの意見を述べます。

先日の懇談の回答においては、直近の内容で実施校は追浜中学校、田浦中学校、衣笠中学校、不入斗中学校、浦賀中学校、久里浜中学校の6校で、参加生徒は男子の合計が47名、女子の合計が3名とのことでした

本市では自衛隊への職場体験学習は8年くらい前から行われているということですが、その始まりの詳細はわからないとのことでした。

今般は地震、洪水、土砂崩れなど災害が頻発し、自衛隊の災害救助がテレビでも放映されていることから、多感な中学生たちは「人の役に立つ任務」という強いイメージで自衛隊をみていると思われます。また、本市には陸上自衛隊の駐屯地、海上自衛隊の施設、防衛大学校が在り、身近な家族親戚、知人友人が自衛隊関係者という生徒も少なくないでしょうから、親近感を持っているのも容易に推察できます。

しかし、私たちは中学校における自衛隊の職場体験学習にはいくつかの重大な問題があると捉えています。

その一つ目です。

教育委員会の立場は冒頭での教育長の答弁にもありますように、「自衛隊も職業観を養う学習の場の一つと捉え、他の職業と区別する必要はない」というものです。しかし、そもそも日本の中で自衛隊の憲法上の位置づけは確定しているといえるでしょうか。国民の中では自衛隊の存在に対して「違憲」「合憲」様々な意見が現存しています。そのような中にあっては例え「生徒の希望」があったにしても自衛隊の職場体験学習に反対や懸念をもつ保護者もいることから、「他の職業と区別する必要はない」という立場であるにせよ、教育委員会は配慮ある対応をするのが道理ではないでしょうか。

なお、私たちが自衛隊をどのように考えているかもあわせて述べておきたいと思います。日本共産党は綱領の中で自衛隊について、「海外派兵立法をやめ、軍縮の措置をとる。安保条約廃棄後のアジア情勢の新しい展開を踏まえつつ、国民の合意での憲法第九条の完全実施(自衛隊の解消)に向かっての前進をはかる。」と述べています。したがって、私たちは自衛隊を違憲の存在と認識していますが、災害救助活動に対しては多くの国民が感じているように評価をしていますし、現状において即時解消するべきという認識もありません。

二つ目です。

このような自衛隊への職場体験学習は、全国で行われていると承知しています。ある地域の中学生は東部方面混成団の居住区の見学や基本教練の体験、第一高射群第二高射隊で軽装甲機動車などの装備品を見学し、本市に在る海上自衛隊第二術科学校ではガスタービンエンジン及びディーゼルエンジンの操縦体験を行ったとのことです。岩手では「戦車の写真も撮れます」と間近で見せることに留まらず、装備品見学と合わせて戦車・車両の体験搭乗も行われているといいます。ご承知かと思いますが、数年前に米海軍横須賀基地の開放の際に、米海軍と海兵隊がデモンストレーションで武闘訓練を見せたり、銃を子ども達に触らせ、覗かせる行為があり大問題となりました。その後、これらの行為を米海軍基地は行っていません。米軍や自衛隊の武器や装備品の本来の目的と機能は戦場や戦闘行為で使用する「戦争の道具」であり、それらを子ども達に触らせることが「学習」や「職場体験」の名目で行われているということに私たちは激しい疑念と不信感を抱きます。

三つ目です。

自衛隊を憲法上どのように捉えるかという問題は前述のとおりですが、この数年間における自衛隊の任務の変質については特筆しなければなりません。自衛隊の任務は戦後長きに渡り貫かれてきた憲法第九条の下での専守防衛から今や完全に逸脱しています。ご承知のとおり、一昨年2014年7月政府は集団的自衛権の行使容認を閣議決定しました。次いで昨年2015年9月には安全保障関連法を可決し、今年2016年3月には施行、そして11月には発動かと言われています。

内閣官房が作成した集団的自衛権の閣議決定に際してのQ&Aでは「今回の閣議決定で、自衛隊員が戦闘に巻き込まれ血を流すリスクがこれまで以上に高まるのではないか?」との設問に対して「自衛隊はことに臨んでは危険を顧みず、身を以て責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえることを宣誓して任務にあたっています」と答え、さらに「世界中のどこにでも行って戦う」と言っています。

北海道の陸上自衛隊北部方面隊では2010年から、3万8000人の隊員に「家族への手紙」という名の遺書を書かせていることがわかっています。遺書を書くことは「命を賭す職務に就く軍人としての矜恃である」と訓示しているといいます。これらの遺書は15歳(中学卒業)18歳(高校卒業)で入隊する未成年にも強要されていて保護者も教員も知らなかったといいます。

現在、自衛隊はPKO(国連平和維持活動)でアフリカ中部・南スーダンの首都ジュバへ派遣されています。官房長官が「治安情勢が急激に悪化している」と認め陸上幕僚長が自衛隊宿営地に小銃のものとみられる弾頭の複数の落下を記者会見で明らかにしています。近接地で戦闘が続いたため、自衛隊員らは宿営地内で防弾チョッキやヘルメットをつけ身を低く構えたといいます。安保関連法の一部である改定PKO法が適用されれば、宿営地防衛のために自衛隊は発砲が可能となります。このような状況は自衛隊員自身も不本意であり不安を感じるところではないでしょうか。

以上、いくつか具体的に述べましたが、明らかに自衛隊の任務は変質しています。このような事実を学習指導要領や社会科教科書に載っていないことを口実に生徒に伝えることもなく従前どおり、「職業観を養うため他の職業と同列だ」として職場体験学習を行っていくことが放置されてよいのでしょうか。平和都市宣言をし平和首長会議にも参加している本市として立ち止まって、しっかり考えるべき時と思います。すでに情勢は緊迫の度を増しており、未来を担う子どもたちの教育に携わる方々の良識が問われている時と思います。もとより、教育編成権が学校長にあるとはいえ、侵略戦争の反省の上に出発した戦後教育の進んできた道の深い分析と今後の方向性を示すものとして教育委員会としての慎重な検討こそ必要だと思います。